第4章

 誰も自分を見ていないのを確認しながら、大場プロデューサーはこっそりと横川ディレクターに近づいた。

「...余計なことしやがりましたね、あの男おんな」
 横川はディレクターらしく、出演者たちをじっと眺めている。
 しかし観てはいない。
 頭の中ではまったく違うことを考えている。
「切り替える前に、西原など放り出しますので」
「大場、声でかいぞ」
「すみません。もうすぐですかね? そうだ、それよりも、ヒゲ夫が文句言わないですかね」
 ヒゲ夫こと、村田幸夫。カメラマンである。仕事以上に、音楽を伝えることに命を懸けている男。
 商業一番のテレビ局では一番邪魔な存在である。
 ディレクターの計画を話したところで、乗ってこないばかりか、話を伝えてはいけない相手に真っ先に話を全部持っていきそうな人間である。
 だから横川も大場も、村田には一切話を伝えていない。

「黙って撮らせておけばいいんだ。途中から切り替わってもあいつは気付かない」 横川は正面を見ながら、薄笑いを浮かべる。「それよりも、先方さんスタンバイできてるのか?」
「今の今連絡したところですが、カメラのバッテリーが心許ないと言って、使いっ走りに買いに行かせてるそうです」
「のんびりしやがって。こっちは俺らの運命がかかってるんだぞ。セッティングは大丈夫なんだろうな。臨時ディレクター以外、出張ってる人間はアマチュアばかりだろ」
 大場は横川の背中を叩く。「セッティングは大丈夫です。全部確認しました。焦りは禁物です。いったん『主役』が画面に映れば、すべて成功なんですよ」

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