第19章

BGM
http://www.youtube.com/watch?v=FGT1AcMRV9w


 大須川は、トイレの個室の中で固まっていた。
 ロダンの考える人状態である。ズボンもパンツもまだ上げていない。
 大場からの、今の電話。
 お払い箱、ということだ。司会交代。
 じゃあ俺はどうしたらいい。
 このまま帰れとは言ってなかった。あれこれ尋ねる前に電話を切られてしまった。
 では、端っこに座って、ギャラリーになってやるか。
 俺が今度は空気を読まんおっさん役になってやろうか。
 しかし音楽を流さないことには番組は成り立たないだろう。
 まさか、最初からあいつが音源を用意して?
 それ以前に、アレが司会をして、番組の体を成すのだろうか。
 ネットでの評判では、手探り状態で進めていたとはいえ、番組の評判は概ね上々のようだ。
 なのになぜ、司会交代?

 大須川は呆然とした状態でトイレから出た。
「あれ? 海賊ちゃん元気ないよ? どうしたの?」
 正面から歩いてきた藤村アビゲイルが元気良く声をかけた。
「あはは。あはははは。元気もなくなるよ。司会、下ろされちゃった」
「なんでぇー? ずっと最後まで海賊ちゃんが司会だって言ってたじゃん!」
「とある出演者の方に交代することになりました。プロデューサー命令です。とほほほほ」
「許せない、そんなの! どこ、あいつ!」
「まあ、アビちゃん、落ち着いて。私はもう気合いが抜けた。しぼんでシワシワになってしまった風船だ。アビちゃんは変わりなく、アビちゃんらしいおしゃべりを続けてください」
「海賊ちゃん、帰っちゃうの?」
「いいや。帰らないよ。俺も今度はギャラリーとして参加する」
「へへー」
 藤村は大須川の左腕に絡み付いてきた。
「なんやなんや、こら」
「じゃあ海賊ちゃん、わたしの横に座って!」
「はいはい...」
 そのとき、廊下の角から姿を現したのは西原亜紀である。腕を組んで歩く二人を怪訝な表情で見た。
「こら、離しなさい。いや、この子が勝手に俺の腕に抱きついてきたからであって。これ、離れなさい」
「あー! おねーさん! なんかね、今大変なことになっちゃってるの」
「大丈夫ですよ。藤村さんは持ち前のその明るさで最後までお願いしますね」
 そして西原は藤村から視線を外す。
「あの...大須川さん、10分しか時間ないですけど、ちょっとお話、いいですか? ちょっとこっち、来てください。あ、大須川さんだけ」


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