第32章

BGM
http://www.youtube.com/watch?v=nM__lPTWThU


 女王様は天使の格好のまま、鬼のような顔をしていた。
「放送できない、ってどういうことよ」
「移動中継車がなければ電波が飛ばせません」
 女王様は鋭いミドルキックをディレクターのモモに放った。
「暴力反対です!」
「なんでアンテナの車がいなくなったのよ!」
「多分、さっきまでここにいたNTVの大場と横川が...」
「どういうつもりよ! なんであのおっさんたちが!」
「それは、LEYNAさんがねちねち苛めるからじゃないんでしょうか...痛い!」
「舐めたマネしてくれたわね。今からNTVに向かうわよ。あっちで放送開始」
「だったらクラウドTVへ向かいましょう」
「あたしの言うことが聞けないって言うの?」
「そういう問題じゃなくって、クラウドで新しい番組の予告をやれば、何の問題もないじゃないですか」
「問題大有りだわよ。あれこれ言いくるめられるに決まってる。あたしより権限ある連中がいるのよね、あそこには。残念ながら。だから行くわよ、NTV」
「何言ってるんですか。大場と横川は何度電話しても出ません。あいつらが戻ったという保証がありませんし」
「そんなの関係ない。どうせNTVはクラウドが吸収する。スタッフなど放り出せばいいだけのこと。あんたがディレクターやりなさい。これは業務命令だわ」
「あの、お取り込み中すみませんが」 LEYNAのマネージャーが首を突っ込んできた。
「LEYNAさん、7時から地上波YTVでの生撮りです。つまり6時30分には秋葉原に」
「うーん...わかった。じゃあキャンセル」
「さすがLEYNAさん、ここぞというときは物分りがよくいらっしゃいます」
「何言ってんの。YTVキャンセルよ」
 マネージャーは悲鳴に近い声を放った。
「馬鹿ねえ、あんた、一体何年あたしのマネージャーやってるの。YTVのキャンセルは一時のブーイングで終わる。その代わり、あたしの、あたし専門のTV局ができるのよ。その第一歩じゃない。
 世界が終わったような顔しないでよ! あたしがクラウドの明日葉(あしたば)さんに直接連絡するから。あんたに肩身の狭い思いはしないようにあたしがしてあげる。感謝しな」
 明日葉、というのは天下のクラウドミュージック、社長の名前である。
「車用意して。メイク、ディレクター、念のためカメラも。10時からのFTVはキャンセルしない。間に合うから。あんた、お台場に先に行ってなさい。NTVに来なくていい」 マネージャーは目の前に差し出された指を呆然と眺める。
「あんたらは部屋の掃除しておきなさい。ピッカピカにしておくのよ! ピンクグレープの買い置き忘れないで。それから。今日の気分はKLAISのワインローズ」
 酒ではない。入浴剤である。4人の付き人は揃って土下座せんばかりのリアクションを返す。
「じゃあ行くよ!」


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